薬事法という法律の名前を耳にしたことがあるけれども、それがどのようなものであるのかを詳しく理解しているという方は意外と少ないのではないでしょうか。
この法律は、私たちの生活に関係する重要なものですので、内容について知っておいて損はありません。以下では、薬事法のポイントについて紹介しますので、この機会にぜひ頭に入れておくとよいでしょう。
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薬事法というのは、その名の通り、医薬品などの製造や販売等の取扱いについて定めた法律です。実は、薬事法というのは古い名称で、2014年の法改正によって、それ以降は「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」に代わりました。
非常に長くて覚えにくいので、一般的には「医薬品医療機器等法」や「薬機法」といった略称で呼ばれています。
薬事法という名前の法律ができるのは20世紀に入ってからですが、国レベルで薬品を規制するという動きはすでに江戸時代半ばの18世紀前半頃から出てきていました。具体的には、1722年に、江戸の伊勢町というところに「和薬種改会所」という薬品検査所が設置され、そこで検査に合格した薬品以外の販売を禁じることによって、クオリティを維持しようとしたのです。
同様の施設は、駿府や京都、堺、大坂にも設置され、全国的に薬品の規制が進みました。また、それ以外にも、薬を取り扱う問屋は、代表者が丹羽正伯という本草学者から講習を受けなければならないといったルールも定められたのですが、業界からの激しい反発もあって、一連の規制は1738年に廃止されてしまったのです。
その後、本格的に薬品が規制されるようになるのは、明治維新後になってからのことです。1870年に制定された「売薬取締規制」や1873年に制定された「薬剤取締之法」などによって、薬品が大幅に規制されるようになり、現在の薬局・薬剤師や薬価制度、医薬分業などの基礎が作られました。
そして、第二次世界大戦中の1943年になって、ついに「薬事衛生の適正を期し国民体力の向上を図る」ことを目的として、「薬事法」(いわゆる旧々薬事法)という法律が制定されるに至ったのです。ただし、戦争中ということもあって、当時は医薬品は戦時統制体制のもとに厳格に管理されていたという点に注意する必要があります。
終戦後は、新たに制定された日本国憲法を踏まえて、従来の大幅な見直しが行われ、薬事法もその対象となりました。
戦後の物資不足による粗悪な医薬品の流通状況の改善を図る必要が生じたこともあって、1948年に新しい薬事法(いわゆる旧薬事法)が策定されたのです。なお、この旧薬事法は、それまでの旧々薬事法を改正したものではなく、それを廃止してまったく新規の法律として制定されたものでした。
この薬事法は、国民皆保険を基本とした健康保険制度を発足させるにあたって、1960年に大幅な改正が加えられています。それによって、医薬品販売業は、一般販売業、卸売一般販売業、薬種商販売業、配置販売業、特例販売業に分類されることになり、それぞれについて販売するために必要となる手続き等が詳細に規定されるようになったのです。
1960年の薬事法については、その後も何度か改正されています。
例えば、1995年に医薬部外品の承認権が厚生大臣から都道府県知事に委任されたり、1999年に栄養ドリンクがコンビニエンスストアなどの薬局以外の店舗でも取り扱えるようになったりといったように、時代とともに規制内容は繰り返し見直されてきたのです。
また、2009年には、一部の医薬品について薬剤師不在でも販売できるようになるなど、規制の厳格化だけでなく緩和の動きも生じています。こういった流れを受けて、2014年の改正によって新たに誕生したのが、薬機法こと「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」なのです。
なお、前述の通り、これは新しい法律ではなく、従来の薬事法の名称と内容を変えたものであるという点に注意が必要です。薬機法の目的は、医薬品等の品質・有効性・安全性の確保とこれらの使用による保健衛生上の危害の発生・拡大の防止、指定薬物の規制、医薬品・医療機器・再生医療等製品の研究開発の促進の大きく3点です。
この目的を達成するために、同法は、医薬品、医薬部外品、化粧品、医療機器の定義を明確にしたうえで、それぞれについての取り扱い方法を厳格に定めているのです。
では、ここからは薬機法の規制対象である医薬品、医薬部外品、化粧品、医療機器のうち、医薬品と医薬部外品をピックアップして、もう少しわかりやすく見ていくことにしましょう。まず、医薬品というのは、人や動物の病気の診断や治療予防に使用されることなどが目的とされたもので、機械器具等は除くこととされています。
医療用医薬品や一般用医薬品(OTC医薬品)などが該当しますが、定義を見て分かるように、動物向けの治療薬についても医薬品に含まれるという点に注意しなければなりません。一方、医薬部外品というのは、吐き気や不快感、口臭や体臭などを防止するために使われるものであって、人体への作用が緩和的なものであるとされています。
ここで「緩和的」とは、いかなる使い方をしても、人体に強い作用を起こさない安全性の高いものという意味であると理解されています。育毛剤や手指消毒製品、整腸剤などは、医薬部外品に該当するケースが多いですが、それ以外にも、ネズミ捕り用の殺そ剤や害虫駆除用の殺虫剤なども医薬部外品に当たります。
薬機法の規制対象となる医薬品などを販売する場合には、同法が定める所定の手続きを経る必要があります。この手続きを行わずに販売してしまうと、法律違反となって重い罰則を受ける恐れがありますので、くれぐれもそうならないようにしなければなりません。
簡単に言ってしまうと、厚生労働省に申請して許可を受けるという手続きが必要になるのですが、一連の手続きは法律の知識がない人だけで行うのはかなりハードルが高いので、難しいようであれば弁護士などの専門家に相談してみるとよいでしょう。
薬機法は、医薬品などの広告についても規制しています。例えば、虚偽広告や誇大広告、承認前の医薬品や医療機器・再生医療等製品の広告などは条文で明確に禁止されていますし、特定疾病用の医薬品や再生医療等製品の広告についても一定の制限が設けられています。
これらに違反した場合には、対象商品の売上の4.5パーセントに相当する額の課徴金を課されるおそれがありますので、広告を出す際は法律に反しないように十分に注意するようにしましょう。
以上で見てきたように、薬事法(現・薬機法)は、医薬品だけでなく医薬部外品などについても幅広く規制している法律です。長い歴史があるだけに、広告をはじめとした多岐にわたる規制が設けられていますので、対象となる医薬品などを製造、販売する際には、法律違反とならないようにするためにも、そのポイントをきちんと把握しておかなければなりません。
参照『薬事法ドットコム』